EU AI法が2026年8月に適用開始──日本の中小企業に関係あるのか

公開:2026年8月14日

結論から言うと、多くの中小企業は「今すぐ何かをする必要はない」側です。 EUのAI規制が2026年8月から本格的に動き出し、制裁金は最大3,500万ユーロ(または全世界売上高の7%)と報じられています。ただしこれはEUに向けてAIを使ったサービスや製品を出している場合の話です。国内のお客様だけを相手にしていて、社内でChatGPTを使っている——という会社に、直ちに義務が生じるわけではありません。ただし1つだけ確認しておくべき点があります。 それを最後に書きます。なお最終的な該当判断は、必ず弁護士など専門家にご確認ください。

「EUのAI法で、違反したら数十億円の罰金」——こういう見出しを目にした社長は少なくないと思います。

不安になるのは自然です。ただ、このニュースは中小企業にとって「追わなくていい話」に入ることがほとんどです。理由を整理します。

何が起きたのか

EUがAIに関する包括的な規制を作り、段階的に適用してきました。報道されている2026年8月は、そのなかでも大きな節目にあたります。

規制の骨格は次のような考え方です。

分類 扱い
禁止される使い方 そもそも使ってはいけない
リスクが高い使い方 厳しい管理義務がかかる(採用選考、与信、重要インフラなど)
限定的なリスク 「AIが関与している」と分かるようにする義務
それ以外 特段の義務なし

制裁金の上限として報じられている3,500万ユーロ/全世界売上高7%という数字は、このうち最も重い「禁止される使い方」に違反した場合のものです。すべての違反に一律でこの額がかかるわけではありません。

なぜ「日本企業も対象」と書かれるのか

ここが混乱のもとです。この規制には域外適用という考え方があり、EUの外にある会社でも、EU域内にAIシステムを提供する場合や、AIの出力がEU域内で使われる場合は対象になりうるとされています。

だから見出しは「日本企業も対象」となります。間違ってはいません。 ただし主語が大きすぎます。

自社が該当しうるか、3つの質問

次の3つに全部「いいえ」なら、いま慌てて対応する必要はまずありません。

1. EU域内のお客様に、自社の製品やサービスを提供していますか 輸出している、EUに現地法人がある、EU向けにオンラインサービスを出している——などです。国内の取引先だけなら「いいえ」です。

2. 自社が作ったAI機能つきの製品・サービスを、外部に販売していますか 自社でAIを組み込んだ機械やソフトを売っている場合です。社内で使っているだけなら、ここは「いいえ」です。

3. 取引先を通じて、自社の成果物がEUに渡っていますか ここだけ少し注意が必要です。部品や中間製品を納めていて、その先がEU向けというケースがあります。

3つとも「いいえ」なら、今回のニュースは自社の話ではありません。 追わなくて大丈夫です。

判断に迷いやすいのは3番目です。「うちは部品を納めているだけだから関係ない」と考えたくなりますが、納入先が最終製品をEUに出しているかどうかは、こちらからは見えません。心配なら、取引先に一度確認しておくと安心です。聞き方は「御社の製品はEU向けの出荷がありますか」だけで足ります。

1つだけ確認しておくとよいこと

「いいえ」だった会社にも、やっておくと後で楽になることが1つあります。

自社がAIを使っている業務を、書き出しておく。

理由は3つあります。

やることは大げさではありません。「どの業務で」「どのサービスを」「誰が」使っているかを1枚にまとめるだけです。業務の書き出し方は業務の棚卸しの手順がそのまま使えます。

該当しそうな場合にやること

上の3つの質問に1つでも「はい」があった場合は、次の順で進めてください。

  1. どのAIを、どの製品・サービスのどこで使っているかを洗い出す
  2. その用途が、厳しい管理義務のかかる分類に当たるかを確認する(採用選考や与信の判断に使っているかどうかが分かれ目になりやすいとされています)
  3. 弁護士など専門家に相談する

2の判断を自社だけでやらないでください。 分類の線引きは条文の解釈が絡みます。ここは専門家に確認すべき箇所です。

なぜ「関係ある」と煽られやすいのか

もう1つ、読み方のコツをお伝えします。この手のニュースは、対応サービスを売りたい側からも発信されます。

「日本企業も対象」「最大3,500万ユーロ」という書き方は、事実としては正しいのですが、主語と条件が省かれていることが多いです。省かれると、読んだ人は全員が自分ごとだと感じます。

見分け方は簡単で、記事の中に「適用されるのはどんな場合か」が書かれているかを見てください。書かれていなければ、その記事は判断材料になりません。条件が書かれている記事だけを読めば十分です。

同じ読み方は、AI関連の調査データにも使えます。数字の裏を見る方法は中小企業のAI利用率は「96%」か「20%」かで具体的に書きました。

この記事の位置づけ

当メディアでは、新しいAIのニュースを「中小企業の現場に関係あるか」で選び直してお伝えしています。追わなくていい話は、追わなくていいと書きます。

今回のニュースは、多くの中小企業にとっては追わなくてよい話です。ただし輸出や、AI機能つき製品の販売がある会社にとっては、確認が必要な話でもあります。自社がどちらかを1分で判別するために、上の3つの質問を使ってください。

他のニュースの読み方は最新動向に、社内での使い方はAI活用ガイドにまとめています。

まとめ

※この記事は一般的な考え方の整理です。個別の該当性の判断については、弁護士など専門家にご確認ください。