中小企業のAI利用率は「96%」か「20%」か──同じ年の2つの調査を読み比べる

公開:2026年8月14日

どちらの数字も嘘ではありません。違うのは「誰に聞いたか」です。 96.2%という数字は回答106社のコミュニティ内調査、20.4%は公的機関の全国調査でした。この2つを並べて分かるのは、AIの利用率は「業界平均」より「自社の周りで誰が使っているか」で見たほうが実態に近いということです。数字に振り回されないための読み方を、この記事で整理します。

「うちの業界はどれくらいAIを使っているんだろう」——導入を考えるとき、まず気になるのがこれだと思います。

ところが2026年、中小企業のAI利用率としてまったく違う2つの数字が公表されました。

2つの数字を並べてみる

数字 調査の中身
A 生成AI利用率 96.2%(2024年度は55.2%) ある企業コミュニティの参加企業への調査。有効回答106社
B AI導入率 20.4%(検討中が18.6%) 独立行政法人中小企業基盤整備機構による全国調査(2026年3月)

同じ「中小企業のAI利用」を測っているのに、4倍以上の開きがあります。

数字が違う理由は3つ

1. 聞いた相手が違います。 Aは特定のコミュニティに参加している企業への調査です。こうしたコミュニティに自ら参加する会社は、新しい取り組みに前向きな会社に偏ります。「AIに関心がある人の集まりで、AIの利用率を聞いた」という構図です。Bは業種も規模もばらばらの企業に広く聞いています。

2. 回答数が違います。 Aは106社。1社の回答が全体の約1%を動かします。100社のうち5社が変われば5ポイント動く規模だということです。

3. 「使っている」の意味が違います。 Aは「業務で利用しているか」を聞いています。社長が1人でChatGPTを触っていても「利用している」に入ります。Bは組織としての「導入」を見ています。1人が試したことと、会社の業務に組み込んだことは、別のできごとです。

それでも両方に意味があります

「じゃあAは参考にならないのか」というと、そうではありません。Aの数字が示すのは、前向きな会社の間ではもう当たり前になっているということです。2年で55%から96%というのは、関心のある層の中でほぼ全員が使う状態になったことを示しています。

一方、Bの20.4%が示すのは、全体としてはまだ5社に1社という現実です。検討中の18.6%を足しても4割弱。まだ半分以上の会社は動いていません。

この2つを重ねると、いま起きていることが見えてきます。

「関心のある層」と「そうでない層」に、はっきり分かれ始めている。

大企業と中小企業の差についても、別の調査で近い傾向が出ています。大企業では59.1%が組織的にAI活用を進めているのに対し、中小企業は30%前後。差があるのは能力ではなく、始めたかどうかのほうです。

社長が判断に使うべき数字

業界平均を調べる時間があるなら、次の3つを見たほうが早く決まります。

1. 同業の上位数社が何をしているか 平均値より、自社より少し先を行っている会社の動きが参考になります。取引先の請求書や見積書の様式が変わった、返信が早くなった、といった変化は分かりやすい兆候です。

2. 自社の中で誰がすでに使っているか 社内アンケートを取るまでもありません。「ChatGPT使ったことある人いる?」と聞くだけで分かります。すでに個人で使っている社員がいるなら、そこが出発点になります。使っている人がゼロなら、まず社長自身が触るところからです。

3. どの業務で効果が出やすいか 公的調査では、導入している業務分野のトップは総務・管理部門で、68.3パーセントに達しています。目的としては「業務効率化・作業時間の短縮」が87.0%で他を大きく引き離しています。効果が出やすい場所は、すでにデータで示されているということです。

このあたりの見極め方は、AI活用ガイドの記事一覧で扱っています。

自社の現在地は、1週間で測れます

全国平均を調べるより、自社の数字を作るほうが判断に使えます。特別な仕組みは要りません。1週間だけ、次の3つを数えてみてください。

1. 社内でAIを使った回数を数える 紙でもチャットでも構いません。「今日AIを使った人は報告して」と1週間だけお願いします。0回なのか、週に数回なのか、毎日なのか。それだけで自社が20.4%側なのか96%側なのかが分かります。

2. 使った人が「何に」使ったかを1行で書いてもらう メールの下書き、議事録の整理、調べもの——どの業務に自然発生的に使われているかが、いちばん効果が出る場所です。ここは推測より観察のほうが当たります。

3. 使わなかった人に、理由を1つだけ聞く 「使い方が分からない」「必要な場面がなかった」「怖い」のどれか、たいてい3つに収まります。答えによって次の打ち手が変わります。使い方が分からないなら手順、必要な場面がないなら業務の選び直し、怖いならルール作りです。

現場に広げる具体的な手順は、AIが「総務で止まる会社」と「現場まで広がる会社」の違いで書いています。

数字を見るときの3つのチェック

今後もAI関連の調査は次々に出てきます。目にしたときは、この3つだけ確認してください。

確認すること なぜ見るのか
有効回答数 100社規模の調査は、参考程度に。数千社なら傾向として信頼できます
誰に聞いたか 特定のサービス利用者やコミュニティ内なら、その集団の話です
言葉の定義 「利用」「導入」「活用推進」は別のことを指します

調査を発表する側にも事情があります。サービスを提供している会社が出す調査は、そのサービスが必要だと言える結果になりやすい——これは悪意ではなく、聞く相手が自社の顧客に偏るためです。だから数字そのものではなく、どう測ったかを見る習慣が要ります。

まとめ

数字を集めるより、自社の業務のどこに使えるかを1つ決めるほうが先に進みます。次に何をするか迷ったら、ツール比較の記事で実際に試した結果を見るか、下の棚卸しシートを使ってみてください。

なお、この記事では調査の出典を実際に開いて、回答数と調査対象を確認しています。数字の引用元は上の「参考にした情報」からたどれます。