AIに「どうやって計算したの?」と聞くと、学校で習う筆算の手順を答えます。でも頭の中を覗いてみると、まったく別のやり方で解いていました。 Anthropicが2025年3月に公開した研究の発見です。つまりAIの「説明」は、本当の理由の報告ではないことがある。仕事でAIに判断の理由を説明させている会社ほど、知っておくべき話です。
今日の元ネタ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究 | Tracing the thoughts of a large language model(大規模言語モデルの思考をたどる) |
| 発表 | Anthropic(Claudeを開発している会社) |
| 公開日 | 2025年3月27日 |
| 手法 | 「AI顕微鏡」と呼ばれる、AI内部の計算の流れを可視化する技術 |
少し前の研究ですが、あえて取り上げます。生成AIが業務に入った今のほうが、この発見の意味は重いからです。
ひとことで言うと
AIが「こうやって解きました」と説明する手順と、頭の中で本当にやっていることは、別物だった。
たとえ話で理解する
暗算で「36+59」を解くところを想像してください。
頭の中では、2人の自分が同時に働いています。
- 1人目は「だいたい90ちょっとだな」と、おおまかな見当をつける
- 2人目は「6+9だから、一の位は5だ」と、最後の桁だけを正確に出す
2人の答えを合わせて「95」。これが、研究で見えたAIの頭の中に近い姿です。
ところが、このAIに「どうやって解いたの?」と聞くと、学校で習う筆算(繰り上がりの1を足す手順)で解いたと説明します。
実際にはやっていない方法を、自分のやり方として説明したわけです。
研究でわかった3つのこと
1. 計算は「見当」と「正確な一の位」の二本立てだった
上のたとえ話のとおりです。研究では「36+59=95」を例に、おおまかな値を出す経路と、最後の桁を正確に決める経路が並行して動いていることが示されました。そして、AI自身が語る解き方は、この内部の流れと一致していませんでした。
2. 文章を書くとき、先に「着地点」を決めていた
英語で韻を踏む詩を書かせた実験があります。1行目が「grab it」で終わったとき、AIは2行目を書き始める前に、韻を踏む単語「rabbit(うさぎ)」を思い浮かべていました。
日本語でいえば、しりとりで最後の言葉を先に決めてから、そこへ向かって文を組み立てるようなものです。AIは「次の1語を順番に並べているだけ」とよく説明されますが、少なくともこの場面では、先を見越して計画していたことになります。
3. 答えが先にあると、そこへ向かって「途中の手順」をこしらえることがあった
いちばん注意すべき発見です。研究では、AIが目指す答えに向かって逆算し、それらしい途中の手順を作り出す場合があることが確認されました。研究チームはこれを「motivated reasoning(動機づけられた推論)」と呼んでいます。
さらに別の例では、AIが「計算しました」と答えているのに、内部にはその計算をした形跡が見つからないケースも示されています。見た目の丁寧さと、実際に中で起きていることは、必ずしも一致しないということです。
このたとえで省いたこと
わかりやすさのために、たとえ話では次のことを省いています。ここは正確に書いておきます。
- AIに「自分」や意識があるわけではありません。 「2人の自分」は、計算の流れを人間向けに言い換えたたとえです
- 「経路」は、研究者が計算のまとまりに名前をつけたものです。脳の神経のような物理的な通り道があるわけではありません
- すべての計算やすべての場面で同じことが起きると確認されたわけではありません。 研究で示されたのは特定の例です
- この手法で見えているのは、AIの計算のごく一部です。 研究チーム自身が、短く単純な指示でも捉えられるのは全体の一部だけで、数十語程度の指示を理解するのにも人手で数時間かかると書いています
- 研究の対象はAnthropicのモデルです。他社のAIでも同じ構造かどうかは、この研究だけでは分かりません
で、仕事にどう関係するの?
ここからは研究そのものではなく、この発見を業務にあてはめた当メディアの見立てです。
AIの「理由の説明」を、判断の根拠にしない
AIに審査や判定をさせて、「なぜそう判断したのか」も書かせている会社は多いはずです。見積もりの妥当性チェック、応募書類の一次選考、問い合わせの振り分けなどです。
この研究が示すのは、AIが書いた理由は、実際の判断過程の報告とは限らないということです。もっともらしい説明が付いていても、それを「根拠を確認した」ことにはできません。
確かめるなら、説明ではなく結果を別の方法で確かめる
計算なら電卓で、事実なら元の資料で。AIの説明を読むのではなく、答えそのものを別の経路で検算します。当メディアでも、書いたAIの自己申告は信じず、公開前に機械的なチェックで通すか止めるかを決めています。仕組みはAI利用ルールは「書く」より「通さない仕組み」で公開しています。
欲しい答えを、質問に混ぜない
3つ目の発見は、指示の出し方にも関係します。「この見積もり、妥当ですよね?」と聞くと、AIが妥当という着地点に向かって、それらしい理由を組み立ててしまうおそれがあります。
聞くなら「この見積もりに問題があるとしたら、どこですか」のように、答えの方向を決めずに聞くほうが安全です。AIに任せる範囲の線引きについては、AIエージェントとは何かもあわせて読んでみてください。
用語メモ
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 大規模言語モデル | ChatGPTやClaudeの中身にあたる、大量の文章から学習したAI |
| AI顕微鏡 | AIの内部で、どの計算がどう流れているかを可視化する研究手法の呼び名 |
| motivated reasoning | 結論が先にあり、そこへ向かって理由や手順を組み立てること |
| 解釈可能性 | AIの中身で何が起きているかを、人間が理解できるようにする研究分野 |
まとめ
- AIが説明する「解き方」と、内部で実際にやっている計算は別物のことがある
- 計算では見当と一の位を並行して出していた。文章では先に着地点を決めて書いていた
- 答えが先にあると、それらしい途中の手順をこしらえる場合があった
- この手法で見えているのは計算のごく一部。すべてのAI・すべての場面の話ではない
- 仕事では、AIの説明を根拠にせず、結果を別の方法で検算する。質問に欲しい答えを混ぜない
むずかしい研究を、明日の仕事に使える形まで読み解くのがこのメディアの役割です。ほかの記事は最新動向とAI活用ガイドにまとめています。

