AI利用ルールを1枚にまとめても、ほぼ守られません。 理由は単純で、人は普段ルールを読まないからです。解決の方向は「もっと分かりやすく書く」ではありません。守らないと先に進めない場所にルールを置くことです。当メディアは、AIが記事を書いて人の承認なしに公開する運用をしています。そこで実際に使っている「通さない仕組み」と、直近7本のうち6本が公開直前で止まった実績を、そのまま公開します。
「AIの社内ルールを作りましょう」という話はよく聞きます。実際にひな形も出回っています。
ただ、作った会社の多くで同じことが起きます。
最初の週は全員が読む。2週目には誰も見ない。3ヶ月後には、どこに置いてあるかも分からなくなる。
これはモラルの問題ではありません。ルールを「文書」として置いた時点で、そうなることが決まっています。
なぜ守られないのか
前提として、AIが使われている場所を押さえておきます。中小企業基盤整備機構の調査(2026年3月)では、AI導入業務のトップは総務・管理部門で68.3%。目的は「業務効率化・作業時間の短縮」が87.0%で突出していました。
つまりAIは、急いでいる人が、目の前の作業を早く終わらせるために使われています。
この状況で「ルール文書を思い出して、読み返してから使う」という行動は起きません。急いでいる人ほど、ルールを確認しないからです。 そしてAIを使う動機が「急いでいるから」である以上、これは構造的に避けられません。
当メディアがどうしているか
ここからが本題です。
このメディアは、AIが記事を書き、人が確認せずにそのまま公開するという運用をしています。週3本、公開前に人の目は入りません。
「それは危ないのでは」と思われるはずです。実際、そのままやれば危ないです。だからルールを文書ではなく、通過できない関門として置いています。
仕掛け1:ルールを「実行できないコード」にする
公開コマンドの中に、機械チェックを埋め込んでいます。現在9項目です。
| # | 見ている内容 |
|---|---|
| 1 | 冒頭に結論があるか |
| 2 | 事実に出典があるか |
| 3 | 税務・労務・法務に触れるなら、専門家への確認を促す一文があるか |
| 4 | 許諾していない社名が本文にないか |
| 5 | 内部リンクが3本以上あるか |
| 6 | 狙うキーワードが既存記事と重複していないか |
| 7 | 本文が2,500字以上あるか |
| 8 | 過剰な表現がないか |
| 9 | 日本語で崩れる書き方をしていないか |
1つでも引っかかると、公開されずに下書きへ戻ります。 意志の力は関係ありません。書いた本人(この場合はAI)が「まあいいか」と思っても、通りません。
仕掛け2:種類で線を引き、危ない話は自動公開の対象外にする
チェックを通せばよい、という設計にはしていません。そもそも自動で出してはいけない種類を先に決めています。
- 顧客の事例(社名・実数値を含むもの)
- 税務・労務・法務の具体的な判断
- 他社サービスの優劣の断定
これらは書かれても公開されず、確認待ちとして溜まります。放置すれば公開されないので、忘れても事故になりません。
仕掛け3:判断が要るところだけ、人に残す
全部を機械に寄せてはいません。「顧客の掲載許可を取る」「現場で起きたことを教える」——ここは人にしかできないので、月30分だけ残しています。
残す量を極限まで減らすほど、その30分は実行されます。 「毎回全部チェックしてください」は、忙しい月に必ず飛びます。
実際どのくらい止まっているか
仕組みを入れただけでは意味がないので、実績を出します。
当メディアで新しく書いた記事7本のうち、6本が公開直前で1回以上差し戻されました。 引っかかった内容の内訳はこうです。
| 差し戻しの理由 | 件数 |
|---|---|
| 本文が2,500字に足りない | 5 |
| 日本語で太字が崩れる書き方 | 4 |
| 内部リンクが3本未満 | 1 |
7本中6本です。 文書として「2,500字以上書きましょう」と書いてあっても、この6本は世に出ていたことになります。
なお5番目の内部リンク不足は、カテゴリ名がリンク文字に入っていただけで誤検出したこともありました。チェックが厳しすぎる方向に外すのは、緩すぎるより安全です。
自社でやるなら、どこに置くか
コードを書かない会社でも、考え方はそのまま使えます。「ルールを守らないと次に進めない場所」を探して、そこに置くだけです。
| 業務 | ルールを置く場所 |
|---|---|
| AIで作った文書を社外に出す | 送信前の承認欄にチェック項目を1行入れる |
| AIに社内資料を読ませる | 資料の保管場所を分け、入れてよいフォルダだけ共有する |
| 見積り・請求にAIを使う | 金額欄を人が手入力する様式にする(AIに埋めさせない) |
| 顧客情報の扱い | 顧客名の入ったファイルを別の場所に隔離する |
共通しているのは、「気をつける」を求めていないことです。気をつけなくても事故らない形に、業務の側を変えています。
それでも文書は要ります(ただし目的が違う)
誤解のないように書くと、ルール文書が不要という話ではありません。必要ですが、役割が違います。
- 文書の役割:何かあったときに「決めていた」と示すため、社内の共通認識を作るため
- 仕組みの役割:日々の運用で、実際に守らせるため
文書だけだと守られません。仕組みだけだと、なぜそうなっているか誰も分からなくなります。両方要りますが、順番としては仕組みが先です。1枚の文書を完璧にする時間があるなら、関門を1つ作るほうが効きます。
なお、就業規則や個人情報の取り扱いにかかわる部分は、社内の決めごとだけで完結しません。実際に規程へ落とす段階では、社会保険労務士や弁護士に確認してください。 この記事は運用設計の話であり、法的な判断を示すものではありません。
まとめ
- ルールが守られないのは意識ではなく、急いでいる人はルールを読まないという構造のため
- 効くのは「分かりやすく書く」ではなく、守らないと通れない場所に置くこと
- 当メディアは公開コマンドに9項目の機械チェックを埋め込み、人の確認なしで運用している
- 新しく書いた7本のうち6本が、公開直前で差し戻された(うち5本は文字数不足)
- 危ない種類(顧客事例・法務判断・他社比較)は、そもそも自動公開の対象から外す
- 人に残す判断は極限まで減らすほど実行される
- 文書と仕組みは役割が違う。順番は仕組みが先
AIを社内のどの業務から入れるかがまだ決まっていない場合は、先に業務の棚卸しをしたほうが早いです。現場に広がらない段階でつまずいているならAIが「総務で止まる会社」と「現場まで広がる会社」の違い、任せる範囲の線引きはAIエージェントとは何かをあわせてご覧ください。

