結果を先に言うと、「そのままは出せない。でも8割は使える」でした。 見積り依頼のメールをAIに渡したところ、挨拶・要件の整理・追加で聞くべきことまで、きれいな文面が返ってきました。ただし単価・最小ロット・納期は「〇円」「〇枚」のまま空欄でした。 AIが勝手に数字を作らなかったのは、むしろ正しい動きです。ここから見えるのは、AIに文章を作らせ、自社しか知らない数字は人が入れるという分担が現実解だということです。
問い合わせへの返信は、中小企業でいちばんAIに任せたくなる仕事だと思います。文面を考えるのが面倒で、しかも遅れると失注につながる。
実際どこまでできるのか、本当にやってみました。
試した内容
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 使ったもの | OpenAIのコマンドラインツール経由でAIに作業を依頼 |
| 渡したもの | 見積り依頼の問い合わせメール1通(架空の内容) |
| 指示 | 「この問い合わせに対する返信文を書いてください。会社の担当者が送る想定です」 |
| 与えた情報 | 問い合わせ本文だけ。自社の価格表や納期の情報は一切渡していない |
| 所要時間 | 1分未満 |
問い合わせの中身は、ラベル印刷会社への見積り依頼という設定にしました。サイズ50mm×30mm、年間3万枚、屋外使用で耐候性が必要、最小ロットと納期も知りたい——という、よくある内容です。
返ってきた文面
そのまま載せます。
件名: Re: 見積りのお願い
山田製作所 山田様
はじめまして。お問い合わせいただきありがとうございます。
表示ラベルについて、概算のお見積りをご希望とのこと、承知いたしました。
50mm×30mm程度、年間3万枚ほど、屋外機械への貼付で多少の耐候性が必要という条件ですと、材質や印刷色数、粘着の仕様によって金額が変わりますが、概算では1枚あたり〇円〜〇円程度が目安となります。
最小ロットは仕様にもよりますが、通常は〇枚から対応可能です。納期は、デザインデータ確定後おおよそ〇営業日程度を見込んでおります。
より正確なお見積りのため、差し支えなければ現在お使いのラベルの写真や仕様、印刷色数、可能であれば現物サンプルをご共有いただけますでしょうか。確認のうえ、耐候性を含めた適切な仕様で改めてご提案いたします。
分かったこと
1. 数字を勝手に作らなかった
これが一番の収穫です。AIは知らない情報を「〇」のまま残しました。 適当な単価をでっち上げて、それらしい文章にすることもできたはずですが、しませんでした。
もし数字を作られていたら、そのまま送った瞬間に事故です。空欄で返ってきたほうが、はるかに安全です。
2. 聞き返す項目を自分で考えていた
指示していないのに、「現在お使いのラベルの写真」「印刷色数」「現物サンプル」を追加で聞く文面が入っていました。見積りを出すために足りない情報を、問い合わせ内容から逆算しています。
新人が最初につまずくのが「何を聞き返せばいいか分からない」という点なので、ここは実用的です。
3. 敬語と構成は直す必要がなかった
宛名、挨拶、要件の確認、追加依頼、締めの一文。ビジネスメールの型として、直すところがありませんでした。 会社によって言い回しの好みはあるので、そこは調整が要ります。
つまり、どう使うのが正解か
「AIが下書き、人が数字」です。作業を分けるとこうなります。
| 工程 | 誰がやるか | かかる時間 |
|---|---|---|
| 問い合わせを読んで要件を整理する | AI | 数十秒 |
| 返信の文面を組み立てる | AI | 数十秒 |
| 追加で聞くべきことを洗い出す | AI | 数十秒 |
| 単価・ロット・納期を入れる | 人 | 数分 |
| 送信前の最終確認 | 人 | 1分 |
体感で、返信1通にかかる時間は半分以下になります。ゼロにはなりません。ゼロにしようとすると、事故が起きるのは数字の部分です。
もっと精度を上げるには
今回はAIに自社の情報を一切渡していません。ここに「価格表」「標準納期」「よく聞かれる質問と答え」を渡せば、〇の部分もある程度埋まります。
ただし、自社の価格表を外部のAIサービスに入れることになる点は判断が要ります。どこまで入れてよいかの線引きは、社内で先に決めておいたほうが安全です。この考え方はAIエージェントとは何かで整理しています。
まずは価格を含まない返信——問い合わせの受領連絡、日程調整、資料送付の案内あたりから始めるのが現実的です。
返信のどこを社内で決めておくか
この検証で分かったのは、AIに任せられない部分がはっきり決まっているということです。だとすれば、そこを先に社内で整理しておけば、任せられる範囲が広がります。
1. 「概算でいくらか」を答えてよい範囲 その場で概算を出してよいのか、必ず持ち帰るのか。ここが決まっていないと、担当者ごとに返信の中身が変わります。AIを使う前から起きている問題でもあります。
2. 聞き返す項目の定型 今回AIが挙げた「写真」「印刷色数」「現物サンプル」のように、見積りに必要な情報は毎回ほぼ同じです。これを一覧にしておけば、AIにも人にも同じ精度で使えます。
3. 返信までの目標時間 「当日中に一次返信」と決めておくと、AIを使う理由がはっきりします。速さを目標にしないと、結局これまでどおり後回しになります。
つまり、AIを入れる作業は、自社の営業のやり方を言葉にする作業でもあります。ここを飛ばすと「AIを入れたのに何も変わらない」となりがちです。
やってみるときの3つのコツ
1. 問い合わせ本文をそのまま貼る。 要約して渡すと、AIが読み取れる情報が減ります。原文のほうが結果が良くなります。
2. 「誰が誰に送るか」を書く。 「会社の担当者が送る想定です」の一文があるだけで、敬語の水準が揃います。
3. 空欄は空欄のまま出させる。 「分からない数字は〇にしてください」と先に伝えておくと、確実に事故を防げます。
まとめ
- 返信の文面は数十秒で作れる。敬語と構成はほぼ直しが要らなかった
- 自社しか知らない数字(単価・ロット・納期)は埋まらない。ここは人の仕事
- AIが数字を捏造しなかったのは良い挙動。空欄で返ってくるほうが安全
- 指示していない「追加で聞くべきこと」まで入っていた
- 現実的な分担は「AIが下書き、人が数字と最終確認」

